TIPに投資することで米国のインフレ連動国債で構成される指数と同等の投資成果を目指した運用を行うことが出来ます。TIPで投資することができる米国債はただの米国債ではなくインフレを加味した償還が条件となる米国債です。
例えばインフレを加味しない普通の名目債券Aと、インフレを加味する実質債券B(インフレ連動国債)で考えてみましょう。なお、インフレ連動債券はインフレ率を加味した実質価格で決済されます。
前提条件は以下とします。
- インフレ率:2%
- 1年物名目債券Aの利回り:1%(普通の債券)
- 1年物実質債券Bの利回り:1%(インフレ連動債券)
この場合、100円だったAが1年後に101円になり、100円だったBが1年後にインフレ率を加味した103円で償還されます。(ざっくり計算)Aは2%のインフレの波に呑まれましたが、Bはインフレを加味し1%の債券利回りを得ることが出来ています。
インフレ連動国債について知るべきことは2つあります。
- インフレ連動国債はインフレに負けない債券運用ができること。
- 市場で売買されるインフレ連動国債はインフレ率を考慮した売買がされること。
Bは償還時にインフレを加味した金額で決済できますが、それまでは市場で売買されるということです。つまり、債券市場の参加者たちがインフレ率を勝手にインフレ連動債に織り込んでいきます。名目債券Aとインフレ連動債のBの利回りの差を見れば市場参加者が織り込むインフレ率を知ることが出来ます。すげーべんり。
たとえば10年物名目債券の利回りが2.5%で10年物インフレ連動債の利回りが2%だった場合、市場が想定する10年間のインフレ率は0.5%だということです。ちょーべんり。
ちなみにこのインフレ率をブレーク・イーブン・インフレ率と呼ばれ、期待インフレ率に近似していると考えらています。
もう一度繰り返します。
インフレ連動債券に投資することで、インフレに呑まれない債券投資を実施出来ます。債券はインフレにとても弱いのでインフレ対策の投資として非常に心強いです。但し、インフレを除く実質金利の影響は変わらずあるので、金利リスクに関しては忘れてはいけません。
また、インフレ連動債券市場は通常の名目債券市場に比べ1/10程度しか無い為、米国と言えども流動性には注意が必要です。
このインフレ連動国債は日本でも様々な金融商品を通して販売されており、インフレ耐性のある資産として運用されています。日本の債券は金融緩和の影響でバブル状態ですけどね。

債券投資の価格変動要因は①実質金利、②インフレ率、③信用リスクでした。通常の米国債は信用リスクが無いので長期金利=名目金利(実質金利+インフレ率)が価格変動要因となりますが、TIPのようなインフレ連動国債は実質金利のみの影響を受けます。米国が本当に信用リスクが無いかどうかの判断はお任せしますw

【TIP】iシェアーズ 米国物価連動国債 ETFの概要
ティッカー:TIP(最新データはここで公式HPでチェック)
インデックス:iシェアーズ 米国物価連動国債 ETF
名前:ブルームバーグ・バークレイズ米国TIPS インデックス(シリーズL)
経費率:0.2%
利回り:1.62%
デュレーション:7.58
平均残存期間 :8.25年
平均すると中期国債ぐらいですね。健全な経済であればTIPのようなインフレも怖くない米国債インデックスでローリスク・ローリターン運用を目指せます。羨ましいですね。
【TIP】iシェアーズ 米国物価連動国債 ETFのパフォーマンス
まさにローリスク・ローリターンです。最近はインフレが訪れないミステリーがあり、実質金利も過去15年ぐらいで見ればまだ底値近辺ですからね。
米国実質金利推移
見事に連動しています。実質金利が一時期マイナスに陥った時に高値を取っていますね。

【TIP】iシェアーズ 米国物価連動国債 ETFの使い所
TIPの投資タイミングとしてはドルのインフレがあり、実質金利が下落する場合がベストです。まぁそんな状況があるかはわかりません。せいぜい、中央銀行の腰が引けて、景気が加熱していながらも利上げを実施出来ない場合が考えられます。
若しくは実質金利が暴騰し、ゴールド価格が暴落するような場合にゴールドの代わりにTIPを拾うのも面白いかもしれないですね。ゴールドではなくまったりとインカムを得たい方に向いているかもしれません。
また、ポートフォリオ上でインフレ率の上下に左右されない資産の一角として保有するのも良いですね。リスクが実質金利のみと限定的なので通常の債券と比べても管理しやすいです。

【TIP】iシェアーズ 米国物価連動国債 ETFの所感
インフレ耐性を持つ債券として非常に有望な投資先です。当ブログではゴールド投資を通貨安の投資先候補としていますが、リスクを取れない場合はTIPで代用できるかもですね。本来インフレに弱いはずの債券ですが、TIPはその弱点がありません。
もしくはTIPではなく日本のインフレ連動国債への投資も投資妙味があるかもしれません。なぜならば日銀は金融政策によるインフレ誘導を行い、低金利政策を維持しているからです。低金利のままインフレがやってくる迄は安定した運用が出来ますね。
ですが、気を付けなければいけないのは金融政策に依存していることをリスクとして承知しなければいけないことです。逆方向のサプライズされたら大変ですね。
コメント
米TIPSについて調べるにあたり、こちらの記事を拝見させていただきました。
一つ質問があるのですが、
“たとえば10年物名目債券の利回りが2%で10年物インフレ連動債の利回りが2.5%だった場合、市場が想定する10年間のインフレ率は0.5%だということです。ちょーべんり。”
と説明されていますが、上記のような
名目利回り(国債)<実質利回り(物価連動債)
とされる状況ですと、市場はデフレの予想なのではないでしょうか?
この裏付けのデータとしては現在の米国10年利回りは2.8%前後ですが、直近のTIPS落札利回りは0.762%ほどです。[1]
この名目-実質の差分は2.1%程度ですが、これは米国のインフレ率に相当しています。[2]
2000年から2018年の期間平均インフレ年率は2.14%[2]ですので市場も今後10年間のインフレを2.1%程度と予想しているのだとおもいます。
参考:
[1]Reuters.(2018年7月20日)「BRIEF-米10年物TIPS入札、最高落札利回り0.762%・最高利回り落札比率20.34%」
[2]Official Data Foundation.(July 2018)Current U.S. Inflation Rate: July 2018.
おっしゃる通りです。表記に誤りがあったので修正させて頂きました。ついでに長期金利や実質金利と期待インフレ率の推移をリアルタイムで掲載しているリンクを貼りました。
ご指摘頂きありがとうございました。